エナジック・インターナショナル顧問
医学博士 上古眞理(じょうこ まり)
あなたは「慢性的な脱水状態」にあるのかも⁉
子どもの頃はよく喉が渇いたのに、加齢と共に喉の渇きが減ったと感じていませんか?
生まれたばかりの赤ちゃんの身体の水分量は体重の80%もあります。しかし年齢とともにそれが減っていきます。子どもの頃は70%ですが成人すると60%に、高齢になると50%に下がります。
身体が水分を必要としなくなるのではなくて、喉の渇きを感じなくなるので、水分を摂る量が減ってくるためです。
では水分必要量は加齢と共に減るのでしょうか? そんなことはありません。多くの人は、むしろ水分摂取量が足りていないのです。それどころか、多くの人が、実は慢性的に脱水状態にあります。
便秘、高血圧、体重増、胸焼け、疲労感から、頭痛がする、怒りっぽくなった、肌に艶がなくなった ――まで。これらは年齢のせいではなくて、単に脱水によって起きている場合があります。
「ちゃんと水分を摂っています」という方でも、よく聞くと、お茶やコーヒーなどカフェインが含まれている飲み物をたくさん飲んでいることがあります。でもカフェインには利尿作用がありますから、水分を摂っていても脱水は改善しないことになりかねません。
身体というのはうまくできていて、いろいろな状況に適応します。水分が足りないならまず尿量を減らします。そして脳や心臓など生きていくのに必要な器官に優先的に水分を供給し、髪の毛や肌など命に関係のないところへの供給を減らします。
尿が極端に減ったり肌が異様にカサカサに なったりすれば誰でも気づきますが、少々の変化は気にも留めないものです。
■なぜ女性に便秘が多いのか?
女性の約半数が便秘と言われています。実は女性は男性よりも身体の水分量が少なく、かつ喉の渇きに対して鈍感にできています。特に夏場はあまり汗をかきたくないため、水分摂取を控えたりするのも女性に多い話です。
トイレの回数が増えるのが嫌で意識的に水分量を控え、慢性的な脱水状態になっている人も案外多いのです。高齢者の場合、トイレに行くことが大仕事になる人もいます。それだけでなく、電車や車に乗っていてトイレがなかったり、仕事中にしょっちゅう中座しにくかったり、トイレを控える理由はいろいろあると思います。
冬場はあまり汗をかかないので、さほど水分摂取に気を使っていないと思いますが、しかし空気が乾燥しているところにいることが多いので、自分で感じているよりも水分が身体から蒸発しています。ですから気付いた時にコップ一杯の水を飲むだけで体調が良くなることもあるのです。
■体重×30mlが摂取量の目安
では1日にどれくらいの水分を摂取したら良いのでしょうか。体格や活動量によって変わってきますが、一つの目安として体重×30mlと覚えておいてください。
たとえば体重50kgの人なら1500ml(1.5L)に なります。活動量が多い人や汗をたくさんかく夏場にはもっと必要になります。基本的に腎臓や心臓に問題があって水分摂取量を制限されていない場合は、たくさん飲んでも排出量が増えるだけなので問題ありません。
さらに水はわたしたちの体温を一定に保つのに非常に重要な役割をしています。暑い時には汗を 出すことで体の表面を濡らし、それが蒸発する時に皮膚の温度を下げます。息が早くなるのも肺から水蒸気を出すことで熱を放出しているのです。
犬は暑い時期にハーハーと息が荒くなりますよね。犬は人間のように全身から汗をかけないためです。水は温まりにくく冷めにくい性質があるので、体温を一定に保ちやすくなります。
水分量は筋肉が75%で、脂肪は10%です。年齢と共に体温調節が難しくなって寒がりになる一つの原因は、筋肉量の低下による水分の減少も関係しているのです。
コラム/水のアラカルト
登山と脱水症状
わたしは以前、泊まりがけで北アルプスなど高い山に出かけていました。10kgぐらいのザックを背負って、1日8時間も歩いたりするわけですから、汗のかき方も半端ない量になります。
考えてみたら普通の生活でも少なくとも1.5Lの水が必要なのに、登山中も同じ量かそれより少ない量しか飲んでいませんでした。理由の一つはトイレの問題、もう一つは持っている水が足りなくなったら大変だから、飲む量を制限してしまうことです。
無事に下山後、ほっとした途端に喉の渇きを覚えるのですが、水分を摂っても尿はあまり出ず、すごい勢いで手足が浮腫んでくるのです。数日はスカートもパンプスも絶対に無理な脚になってしまいます。実は登山中に脱水状態になり、身体を守るために腎臓が機能を制限して尿の排出量を減らしていたからです。
そんな大変な思いをしてまでなぜ登山をしていたか、ですって?そこまで行かないと見られない花々や景色が、素敵すぎたからでしょうか。
略歴
医学博士 上古眞理(じょうこ まり)
(株)Peak Health Energy代表取締役
1990年滋賀医科大学卒業
同大内科医局の研修を経て93年同大医学部大学院に進み96年医学博士号取得
98年4月より2017年12月まで京都岡本記念病院に勤務
18年1月より19年12月まで彦根市立病院勤務
専門は神経内科
滋賀県在住